こんにちは、ENGかぴです。
オペアンプは基本特性を押さえておけば簡単に使用することができます。基本回路例として非反転増幅回路・反転増幅回路・ボルテージフォロワーは非常に多く使用するためこの3つの増幅回路が分かっていれば十分といっても過言ではありません。
本記事では、オペアンプを使用する際に確認しておきたい基本特性とよく使う3つの基本回路についてまとめています。関連リンクでは私が設計した経験のあるオペアンプの応用回路に関するリンクをまとめています。
ルネサスエレクトロニクスのUPC258G2をもとにシミュレーションを行っています。また産業用の機器のアナログ回路を対象としており入力電圧の周波数は50Hz(60Hz)をベースにしています。
シミュレーションはLTspiceを使用しており、UPC258G2のspiceモデルを追加しています。spiceモデルの追加方法は下記記事を参考にしてください。
押さえておきたいオペアンプの基本特性
オペアンプは入力ピン2つと出力ピンを持ちます。
+ピンに信号が入ると同相の出力となりーピンに信号が入ると逆相の出力となります。
オペアンプは基本的に帰還させて使用するため-ピン又は+ピンが出力と接続する関係となります。-ピンが出力と接続される負帰還が多く使用されており回路の応用例が多くあります。+ピンと出力と接続する正帰還はコンパレータやアクティブフィルタなどで一部使用される程度であまり使用されません。
押さえておきたい4つの基本特性は以下の通りです。
- オペアンプのパラメータ
- 利得の周波数特性
- オペアンプのオフセット特性
- スルーレート
CTやVTなどをアナログ情報をオペアンプでゲイン調整したりする回路を設計してきましたが、負帰還回路がメインで正帰還回路を使用した経験はほとんどありません。商用周波数程度の入力電圧であれば負帰還回路の基礎を抑えておけば問題ないと思います。
オペアンプのパラメータ
オペアンプの代表的なパラメータ以下の通りです。
- 電圧利得A=∞
- 入力インピーダンスRI=∞(入力電流が0)
- 出力インピーダンスRO=0
オペアンプを負帰還しない場合の利得を開ループ利得といい、負帰還した場合の利得を閉ループ利得といいます。
利得の周波数特性
オペアンプを負帰還せずに使用すると利得は非常に高くなりますが、周波数特性は非常に悪くなります。10Hz程から利得が下がり始め周波数が高くなるにつれて-20dB/decの傾斜で下がっていきます。
平坦な特性を保つためには負帰還する必要があります。
閉ループ利得を見ると負帰還の度合いが大きい(ゲインが低くなる)ほど平坦な部分が高い周波数まで延びていることがわかります。また入力電圧の周波数高くなるほど出力できる利得が下がっていくことがわかります。
周波数が100kHz以上になると発振しやすくなります。高周波の波形の増幅に使用する場合はFETタイプのオペアンプを使用するなど高周波数対応のものを選定する必要があります。いずれにしても高周波になるほどゲインは大きくできません。
負帰還回路の一例である反転増幅回路を使用して周波数特性を確認します。ゲインが0dBになっているもの(緑色)はR3が10kΩの時の結果ですが、100kHzを超える帯域においても平坦な部分が続いていることが分かります。
R3の値をDecade(青:100k、赤:1Meg、水色:10Meg、ピンク:100Meg)で増やしていくと平坦な部分が狭くなっていることが分かります。
オペアンプのオフセット特性
オペアンプは入力の差動増幅器のトランジスタの特性のずれにより理想の特性から出力がずれてしまうことがあります。
特性のずれによる出力もゲインによって増幅されてしまうため可能な限りオフセットを補正しておく必要があります。
入力オフセット電圧
入力電圧を0Vにすると出力電圧も0Vになるのが理想ですが入力段の差動回路の特性のずれにより出力が0Vになりません。
入力オフセット電圧は入力端子にVoffの電源が等価的に接続されているとみなすことができ、この電源を打ち消すような電圧を入力することでオフセット電圧を抑えることができます。
入力オフセット電圧が発生する原因は、入力段のトランジスタのベース・エミッタ間電圧VBE1とVBE2の特性のずれが主な原因です。
オフセット調整端子がついているオペアンプもあるのでオフセット電圧を打ち消す電圧を入力することでオフセット電圧を軽減することができます。
入力バイアス電流と入力オフセット電流
オペアンプの入力の差動回路がバイポーラトランジスタ型である場合Tr1とTr2のベース電流のIB1とIB2が流れます。この電流を入力バイアス電流といいます。入力バイアス電流の差を入力オフセット電流といいます。
入力バイアス電流の補償については反転増幅回路と入力バイアス電流の補償で説明しています。これらの電流が発生する原因は入力段の差動回路であることが主であり、バイポーラトランジスタ入力特有のものです。FET入力のオペアンプではバイアス電流がかなり小さいため1pA程度となります。
スルーレート
スルーレートは時間当たりの電圧変化によって決まりオペアンプの周波数に対する応答性を表すものです。
オペアンプは入力と出力が常に比例することが望ましいのですが、急峻に変化する入力であった場合出力が変化に対して追従できなくなり歪みが生じます。
スルーレートが生じる面の原因はオペアンプ内部のコンデンサによるものと考えられます。スルーレートは以下のように定義されています。$$SR=\frac{ΔV}{Δt}[V/usec]$$これは1usecあたりに変化できる出力電圧の最大値を表しています。歪みが生じない最大周波数について考えてみます。
入力電圧が正弦波で出力が\(V_o=V_msin(ωt)\)で表される場合を条件とし微分すると$$\frac{dV_o}{dt}=ωV_mcos(ωt)$$となり出力電圧が大きくなる条件はcos(ωt)が±1になるときであるので最大値は\(ωV_m\)となります。
この値がスルーレート以下であれば出力波形が歪まないので$$ωV_m≦SR$$が出力電圧が歪まない条件になります。この条件とω=2πfの関係から無歪みとなる最大周波数fmを求めると$$f_m≦\frac{SR}{2πV_m}・・(A)$$となります。
設計する際の考え方について例をあげます。スルーレートが1[V/usec]で出力波形が正弦波でVm=1Vの時に無歪みで出力が得られる最大周波数を考えると式(A)より$$f_m=\frac{1×10^6}{2π×1} = 159[kHz]$$となります。スルーレートの単位がusecに対し周波数の単位の次元は[1/sec]であるため\(10^6\)倍になります。
反転増幅回路
反転増幅回路の特徴:
- ゲインAが-Rf/R1倍となる
- 低出力インピーダンス
- 入力インピーダンスR1
- 実現可能なゲインは0<A<1000
- 実用的には0.1<A<10程度
用途:電圧増幅・アナログ演算
反転増幅回路の出力電圧(ゲイン)
出力電圧をVoを求めます。-ピンの電圧をVAとすると$$\frac{V_1-V_A}{R_1}+\frac{V_O-V_A}{R_f}=0$$となります。理想モデルで考えると-ピンには電流が流れないためVA=0となります。$$\frac{V_1}{R_1}+\frac{V_O}{R_f}=0$$$$V_O =-\frac{R_f}{R_1}V_1$$$$ゲイン=-\frac{R_f}{R_1}$$ となります。この負帰還回路は反転増幅回路と言われておりゲインは抵抗の比で決まります。
入力バイアス電流の補償
反転増幅回路はオフセット電圧対策のためR2を実装することがあります。オフセット電圧が気にならない場合はR2は実装しなくてもよいのですが、電圧増幅を2段にわたって行う場合などは無視できなくなります。R2の効果について説明します。
オペアンプの+ピンと-ピンは高インピーダンスですが、微小電流I1、I2が流れ込むため出力電圧の誤差になります。電流の流れと+-間の電位差が0であることから$$(I_1+I_3)R_1 = I_2R_2・・(1)$$また、R1からRfを通る経路を考えると$$V_O=I_3R_f+(I_1+I_3)R_1・・(2)$$(2)に(1)を代入してI1とI2の関係式にすると$$V_O=(R_1+R_f)(\frac{R_2}{R_1}I_2-I_1)+R_1I_1$$ $$=(R_1+R_f)(\frac{R_2}{R_1}I_2-\frac{R_f}{R_1+R_f}I_1)$$となります。
I1≒I2であるからVoを最小にする条件を考えます。抵抗は定数であるためI1とI2を含む項において最小となる条件を考えればよく最小の定理から$$\frac{R_2}{R_1}=\frac{R_f}{R_1+R_f}$$ $$R_2 = \frac{R_1R_f}{R_1+R_f}=\frac{1}{\frac{1}{R_1}+\frac{1}{R_f}}$$
最小の定理:
「正の数aとbがあり、ab=K(定数)のときa=bのときa+bは最小になる」
I1の抵抗部分をaとしI2の抵抗部分をbとしたとき最小となる条件となる
R2の式を見るとR1とRfの並列抵抗になっていることが分かります。Rf>>R1の場合はR2=R1で問題ありません。I1とI2は入力バイアス電流、I2-I1を入力オフセット電流といいこれらが小さくできるオペアンプが理想的です。
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シミュレーション
LTsipiceで反転増幅回路をシミュレーションしています。入力電圧はAC1V(波高値)で60Hzとしています。反転増幅回路は抵抗比によってゲインが-2倍になっていることがシミュレーション結果から分かります。
シミュレーション(基準電圧をオフセットする場合)
AC波形をマイコンなどに取り込む際はオペアンプで増幅する際に基準電圧分オフセットする必要があります。反転増幅回路にゲインを持たせない場合はR1=R2=R3=R6とします。
シミュレーションではDC5Vでマイコンのアナログ入力に接続することを前提にしているため中央値の2.5Vを中心にAC波形が計測できるようにしています。マイコンに取り込む際に電源電圧を超えないようにクランプダイオード(ショットキーバリアダイオードが良い)としてD1とD2を設けると良いでしょう。
クランプした場合の電流制限としてR7を設けておくとよいのですが、この値が大きすぎると後段の入力回路のインピーダンスと分圧することになるので注意が必要です。
マイコンのデータシートにはアナログ回路に接続する抵抗に関する注意事項が記載されていることが多いのでチェックしておくと良いでしょう。
非反転増幅回路
非反転増幅の特徴:
- ゲインが(1+Rf/R1)倍となる
- 高入力インピーダンス
- 低出力インピーダンス
- 実現可能なゲインは0<A<1000
- 実用的には1<A<10程度
用途:電圧増幅、バッファ
非反転増幅回路の出力電圧(ゲイン)
出力電圧Voを求めます。+ピンのインピーダンスが大きいのでR2の抵抗の影響は受けないものとすると-ピンの電圧はV1に等しくなることにより$$V_1=\frac{R_1}{R_1+R_f}V_O$$ $$V_O=(1+\frac{R_f}{R_1})V_1$$$$ゲイン= 1+\frac{R_f}{R_1} $$となります。
R1+RfはFET入力であれば100k~1MΩ程度、バイポーラトランジスタ入力では10kΩ程度が適切といえます。バイポーラトランジスタ入力では入力バイアス電流補償の効果を期待して+ピン側にR1とRfの並列抵抗を入れると良いでしょう。
シミュレーション
LTsipiceで非反転増幅回路をシミュレーションしています。入力電圧はAC1V(波高値)で50Hzとしています。非反転増幅回路はゲインが1+抵抗比となるため必ず1以上になります。抵抗比は2であるからゲインが3倍になっていることがシミュレーション結果から分かります。
ボルテージフォロワー
ボルテージフォロワーの特徴:
- 入力電圧と同じ電圧を出力する
- 高入力インピーダンス
- 低出力インピーダンス
用途:電圧バッファ、インピーダンス変換
ボルテージフォロワーは高入力インピーダンスで低出力インピーダンスであり入力電圧をそのまま出力するため意味のないように考えてしまいますが、用途の通り電圧バッファとして欠かせない回路です。
ボルテージフォロワーの効果
信号源のインピーダンスが高い回路と入力インピーダンスが低い回路を接続すると信号源の電圧が分圧されてしまいます。
オペアンプへの入力電圧は$$V_i=\frac{R_i}{R_i+R_s}V$$となります。
信号源とオペアンプの間にボルテージフォロワーを挿入した場合の効果について説明します。
信号源の電圧は入力インピーダンスが高いボルテージフォロワーの+ピンに入力されるため、出力が入力電圧と同じVout=Vとして後段のオペアンプに電圧が伝わります。
ボルテージフォロワーの出力インピーダンスは低いので信号源の電圧が分圧されることなく伝わります。
ボルテージフォロワーはインピーダンスの異なる回路を接続する際、お互いに影響を及ぼさないように回路の間に挿入されるバッファとしてよく使用されます。反転増幅器のように入力インピーダンスが低くなるような回路を後段に複数段接続する際にボルテージフォロワーを挿入して電圧が低下しないようにすることが多いです。
シミュレーション
電源電圧はAC1V(波高値)で50HzとしておりR4とR5で分圧しているのでAC0.5V(波高値)が反転増幅回路の入力となり、出力結果がAC1Vになることを期待しての回路でした。
ゲインは-2なので増幅して反転しているのはよいのですが、反転増幅回路の入力インピーダンスがR2となるため分圧による影響を受けています。
反転増幅回路の前段にボルテージフォロワーをいれるとR4とR5の分圧した電圧であるAC0.5V(波高値)がボルテージフォロワーの出力となっており電圧低下していないことが分かります。このシミュレーションから電圧バッファとしての効果が分かります。
オペアンプの空きピン処理
オペアンプはパッケージで2素子入りのものが多く販売されています。2素子のうち1つしか使わない場合があります。未使用なため入力ピンを開放状態にすると浮遊容量などによってノイズの影響を受けノイズを増幅出力しようとするため消費電流が増えてしまう原因になります。
開放状態になっている入力ピンはアンテナになっているのと等しく端子を指で触れるだけで消費電流が増えてしまいます。これはアンテナとなった入力ピンに外来ノイズによって出力電流が変動しているということでもあります。
データシートには未使用ピンの処理方法が記載されているため素子に合った空きピン処理を行うことで対策を行います。空きピン処理例1は両電源または単電源のオペアンプで使用できます。
空きピン処理例2は両電源のオペアンプに使用されますが、抵抗R1とR2を使って両電源の中間電圧が+ピンに入力されるようにしています。抵抗は数kΩから数十kΩの抵抗を使用し+ピンの入力電圧が同相入力電圧範囲内になるようにR1とR2を選択します。
例2において-Vをグランドにした場合は単電源使用するのと同じになります。例1例2どちらの方法を使用するにしても入力電圧が固定されるように構成されていれば問題ありません。
関連リンク
オペアンプはアナログ入力回路において主役と言っていいほど使用されるため資格試験においてもその特徴を問う問題が出題されます。下記リンクでは私が経験してきたオペアンプの応用回路に関するリンクをまとめています。興味があればご覧ください。
【オペアンプ】差動増幅器と絶対値回路(加算+半波整流)の特徴と用途
【オペアンプ】2次のローパスフィルタとパッシブフィルタの特性比較
【オペアンプ】コンパレータと積分回路による方形波/三角波発振回路
【オペアンプ】ピークホールドはピーク検出とサンプルホールドの応用
最後まで、読んでいただきありがとうございました。
私の経験ではUPC258ではオフセット電圧が0.5mVほどでゲインを合計10倍としても数mVにすることができるためマイコンのソフトで補正して判断するようにしているためゲインを大きくしたときの影響を検討するくらいで調整は行っていないことが多いです。