こんにちは、ENGかぴです。
電子機器において電源周りの過電圧・過電流対策の設計は大切です。電子機器の電源ラインに対して誘導雷などのサージ電圧による過電圧保護として使用されるバリスタについて雷サージを一例として寿命計算の考え方や選定例についてまとめました。
過電流対策は遮断機(ブレーカ)やヒューズで行いますが、下記記事に保護協調の考え方をまとめています。
バリスタの寿命計算と選定例
バリスタは電源など装置の入力の末端に接続することで過電圧が印加された時内部に高電圧や電流が波及しないように保護する素子です。
誘導雷に関しては実際に印加電圧や電流が環境によって異なるため推測しにくい部分ははありますが、想定される最悪の条件から寿命や部品の選定を考えていきます。
選定の目安をつける
バリスタのメーカの中からパナソニック製のバリスタを例にして見てみます。パナソニックのサージアブソーバ(バリスタ)ZNRシリーズをみてみます。
データシートを見ていくと部品型式の表に用途例が記載されています。この中から保護したい電圧を選定していきます。開発製品がAC100V系統でアース接続するものであればAC100~220Vにおいて線間用と線-対地間用の用途を選択します。
今回はバリスタ電圧が430Vのものをピックアップして説明していきます。
サージ電流についての考え方
電力規格B-402では雷サージ電圧試験では4.5kVの電圧を1.2/50usのパルスを模擬して発生させて耐量を確認する試験が行われています。雷サージ電流については特に規定がありませんが8/20usのパルスで模擬することが一般的です。
試験対象の機器によっては試験回路に100Ω~20Ωを接続することがJIS規格やJEC規格で規定されています。試験対象の機器が設置される環境を想定して抵抗を選択することになります。下記のリンクに雷サージ試験規格がまとめられています。
直接雷が落ちてしまった場合は保護はできませんが、通常なら避雷器などに落ちた雷が対地に抜けて誘導雷となることが多いことから85%以上は6kV以下であることが多いといわれています。誘導雷の割合については下記リンクに過去の調査データと解説が分かりやすく記述されています。
音羽電機工業株式会社ー低圧設備の耐雷対策ー雷サージの侵入経路
誘導雷のサージ電圧が6kV、サージインピーダンスを100Ωであると推定してサージ電流を計算していきます。
寿命の計算と選定例
誘導雷によるサージ電流について考えます。
等価回路においてバリスタに流れるサージ電流Ipは$$I_p=\frac{V_s-V_p}{Z_s}・・(1)$$となります。
(1)推測したサージ電圧の6kV、サージインピーダンスの100Ωとバリスタ電圧の430Vを代入すると$$I_p=\frac{6000-430}{100}≒56[A]$$となります。サージ電流とサージ波尾長からインパルス寿命特性を見ていきます。先にインパルス印加回数の目標値を考えます。
電子機器については製品寿命を10年(長くて15年)を目安に設計することが多いので最大の15年の寿命を期待しての選定を考えます。
年間雷雨日数を25日(年間雷雨日数の10年間の平均したもので仮定しています)1雷雨当たりの落雷回数を5回から6回と仮定すると雷電流が誘導雷として侵入してくる回数は125~150回/年となります。
最低15年間サージが印加されたとすると最大で150×15=2250回となります。
最低15年間サージが印加されたとすると最大で150×15=2250回となります。
波尾長20usとサージ電流56A(60Aとします)を見ながら目安となる2250回以上となるシリーズを確認します。
ZNRのデータシートを確認すると9シリーズのインパルス寿命特性以上から10000回付近になっています。
従って9シリーズから上のシリーズであれば15年の寿命を満足することができます。
バリスタの特性について
バリスタを選定するうえで押さえておきたいバリスタの特性について説明します。
バリスタ電圧と最大許容電圧の関係
バリスタ電圧と制限電圧の関係はパナソニックのZNRに関するデータシートの説明が分かりやすいので引用しています。
バリスタ電圧はバリスタが動作する直前の電圧で制限電圧はバリスタ電圧を保とうとして抵抗値が変化するというイメージです。
DC1 mAを通電したときのZNRの両端電圧を“バリスタ電圧”と呼びます。 DC1 mA未満の領域を“漏れ電流領域”,DC1 mAを 超える領域を“制限電圧領域”と呼びます。 バリスタ電圧は規定の許容差を有するための各領域の最大値として“最大漏れ電流”及び“最大制限電圧”として表現します。
引用元:パナソニック ZNRサージアブソーバ カタログ AWA0000COL4.pdf
サージ電流が大きすぎるとバリスタ電圧が上昇して制限電圧(max)に達すると保護対象に高電圧が印加されることになり保護できないこともあります。
最大許容電圧はバリスタに連続して印加できる電圧の上限となります。
長期間にわたって最大許容電圧以上の電圧がバリスタに印加されるとバリスタのエネルギー耐量を消耗してしまうことになりバリスタが劣化や故障してしまう原因になります。
最大許容電圧は直流と交流のそれぞれで規定されておりバリスタ電圧よりも小さな値となります。
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サージ電流耐量
雷サージ電圧試験で良となっても雷サージ電流試験では不良となるケースもあります。電力規格では規定されていませんが、JIS規格に準拠し屋外に設置される機器であれば雷サージ電流試験を行うことがあります。
設置環境によってバリスタとケース間の電線を伸びることで電線分のインダクタンスによって電圧が上昇するためバリスタ電圧よりも電圧が上昇し機器が保護できなくなるため不良となることがあります。
雷サージ電流に関しても評価が必要であればサージ電流耐量において1回2回の電流耐量に対して余裕を持った耐量を持つバリスタを選定しておくことが重要です。
バリスタで保護しきれない場合や容量性から大きな電流が保護機器に流れだした場合を想定してヒューズを設置することがあります。CSA規格においてはヒューズの定格が定められています。
関連リンク
下記リンクでは、電子機器の保護協調についてまとめています。保護協調が取れていないと停電箇所が増えたり過電流によって火災の要因になります。
最後まで、読んでいただきありがとうございました。