こんにちは、ENGかぴです。
技術士第一次試験の電気電子部門の試験において最近の傾向としてIGBTの損失を求める問題が出題されています。IGBTの動作と損失の計算の仕方が分かっていれば簡単に回答できます。IGBTの損失問題の解き方について記事にしました。
技術士第一次試験の勉強におすすめする参考書や電気電子部門のポイント解説についてまとめています。これらのシリーズで2か月間勉強することで十分合格できます。
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IGBTの損失問題のポイント解説
パワーエレクトロニクスの分野の問題において最近の傾向としてIGBTの損失を求める問題が出題されています。IGBTの使い方などが分からない場合敬遠してしまいそうな問題ですが、解き方が分かっていれば難しくないと感じたため説明していきます。
今年から数年にわたって出題される可能性もあると考えています。公開されている過去問を使って説明していきます。
R1年度の問題
この問題のポイントは、PWM制御の動きによるIGBTの動作が分かっているかだと思います。IGBTのG(ゲート)にスイッチング周波数が2kHzでありデューティー比が0.7(2kHzのパルスのHighレベルとLowレベルの差が7:3)であることです。
Highレベルの時にIGBTがONとなりLowレベルのときにダイオードがONとなる回路構成となっています。損失の求め方は次のステップで求めていきます。
- IGBTがON時の損失
- IGBTのON/OFF切り替え時(スイッチング損失)の損失
IGBTがON時の損失はデューティー比が0.7からIIGBTがスイッチング周波数のパルス1つ当たりの7割の区間だけ流れるのでIGBTがON時に流れる電流はI1はI1=1000×0.7=700[A]になります。
IGBTがONしているときはエミッターとコレクター間の電圧Vce=1.75[V]であるからON時の損失W1は$$W_1=I_1×V_{ce} = 700×1.75 = 1225[W]$$になります。次に、IGBTのON/OFF切り替え時の損失について求めていきます。
問題では1パルス当たりのEONとEOFFが与えられているためスイッチング周波数により求めることができます。\( E_{ON} = 0.07×2000= 140[W]\)、\(E_{OFF}= 0.1×2000 = 200[E]\)単位は周波数で割るので[J・s]になりますが、J・s=Wであるから[W]となります。
すべての損失を加えたときの損失W2は$$W_2=W_1+E_{ON}+E_{OFF} = 1225+140+200 = 1565[W]$$となります。したがって④が正解になります。
R1年度(再試験)の問題
この問題はR1年度の時にはなかったダイオードの損失を考える必要があります。考え方としてはIGBTのデューティー比が0.7なのでIGBTがスイッチングパルスの7割でONし、OFF時の3割でダイオードが動作することから損失を求めます。
IGBTがON時に流れる電流はI1はI1=1000×0.7=700[A]になります。IGBTがONしているときはエミッターとコレクター間の電圧Vce=1.75[V]であるからON時の損失W1は$$W_1=I_1×V_{CE} = 700×1.75 = 1225[W]$$になります。次にダイオードの損失を求めます。IGBTがOFFしている3割で電流が流れるのでダイオードに流れる電流I2はI2=1000×0.3=300[A]ダイオードの損失W2は$$W_2=I_2×V_d=300×1.9 = 570[W]$$になります。すべての損失を加えたときの損失W3は$$W_3=W_1+W_2= 1225+570 = 1795[W]$$となります。したがって④が正解になります。
IGBTの考え方
IGBTはMOSFETのボディ(寄生)ダイオードができますが、その部分にp型層を通過することでpnpトランジスタを掲載したものです。そのためMOSFETとpnpトランジスタの双方の特性を持つ素子になっています。
IGBTの損失
スイッチング周波数のパルスをIGBTのゲートに入力することでエミッタコレクタに電流が流れるようになります。損失はIGBTに流れた電流とエミッタコレクタ間の電圧の積になるので\(W_1 = I_{IGBT}×V_{CE}\)となります。IIGBTはデューティー比のHighレベルの比率を掛けたものです。
ダイオードの損失はIGBTがOFFしているときに動作するので損失はダイオードに流れた電流と順方向電圧の積になります。\(W_2 = I_{D}×V_F\)となりIDはデューティー比のLowレベルの比率を掛けたものです。
スイッチング損失は\(W_3 = (E_{ON}+E_{OFF})×F\)となります。
IGBTモジュールの損失Wは$$W= IGBTの損失+ダイオードの損失+スイッチング損失$$$$W=W_1+W_2+W_3[W]$$となります。
IGBTの動作
エミッタを設置してゲートに正電圧を加えればMOSFETが動作しpnpトランジスタを駆動することでコレクタ・エミッタ間に大きなコレクタ電流を流すことができます。ボディ(寄生)ダイオードの説明と構造図は以下の新電元工業株式会社のHPが分かりやすいので参考にしてください。
S⇒D間はもともとPN接合すなわちダイオードになっているため、いつでも電流を流すことができます。このダイオードをボディ(寄生)ダイオードといい、MOSFETの記号を図のように書くこともあります。
新電元工業株式会社のHPより引用
IGBTは構造上2段目はバイポーラトランジスタになるのでボディ(寄生)ダイオードがありません。そのためIGBT素子とダイオードを組み込んだモジュールとして製品化されているものが多くなっています。
IGBTの特徴とMOSFETとの使い分け
IGBTとMOSFETの特性の違いは、ON時の電圧降下とスイッチング特性です。MOSFETはキャリアの蓄積がないのでスイッチング速度が速い特徴があります。
オン時には抵抗があり低電圧であれば低オン抵抗であるため低損失にできますが、高圧になるとオン抵抗が高くなり損失が大きくなってしまいます。
IGBTはpnpトランジスタの特性があるのでキャリアの伝搬が影響します。MOSFETほど高速にはなりませんが、バイポーラトランジスタより高速に動作させることができます。
IGBTは伝導率変調によってオン抵抗が低くなっており電流密度を高くできます。コレクタ・エミッタ間の電圧降下はほぼ一定となるため大電流になるほどMOSFETよりも低損失にできます。
上記のように高圧の用途ではIGBTを使い、低圧の用途ではMOSFETを使うという使い分けができます。
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